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固有方程式再考

 行列の固有方程式は,変形処理後,どのような固有値多項式になるのかを考えたい.これは,入試問題などで出る固有値問題を楽して解きたいと思ったことがはじまりだ.行列があって,そこから固有値を引き,行列式をとる.そして面倒な式展開を経て固有方程式にたどり着く,というのがかなり面倒に感じていた.そこで,一般式を独自に導出し,それを覚えておけばそんな面倒はなくなると考えた.
 しかし,どうやって一般形を求めようか.少し考えた末,テンソル記法として用いられる,Einstein縮約が使えそうだと思った.そうすると,少し大変な計算ではあったものの,2x2と3x3の場合を求められたので,それをここで見ていこう.

固有方程式の簡単な説明


 まず,行列の固有方程式の前に,その導出を見ていこう.ある行列\( T \)をベクトル\( \boldsymbol{v} \)に乗算したとする.その結果としてのベクトルが,元のスカラ\( \lambda \)倍になって,向きが変わらない場合がある.即ち,
$$
T \cdot \boldsymbol{v} = \lambda \boldsymbol{v}
$$
という場合が存在する.このときの\( \lambda \)を算出したいとすれば,右辺を左辺へ移項し,\( \boldsymbol{v} \)を除外し,行列式=0の式
$$
|T - \lambda| = 0.
$$
を解くことになる.これが固有方程式である(\( \lambda \)に単位行列が掛けられてはいるが,運用上は1と変わりないので省略している).

Einstein縮約の導入


 以上をEinstein縮約で書くこともできる(それが本題でもあるが...).まず,行列\( T \)をテンソルとみなし,\( T = (T^i_j) \)と表そう.また,ベクトル\( v = (v^j)\)と表す.そうすると,\( T \cdot \boldsymbol{v} = \lambda \boldsymbol{v} \)の式は
$$
T^i_j v^j = \lambda v_i = \lambda g^i_j v^j
$$
となる.ここで,\( g^i_j \)というのは計量テンソルといって,添字の上下を入れ替えることができるものである.ここから\( v^j \)をはずし,行列式をとれば
$$
| T^i_j - \lambda g^i_j | = 0
$$
という固有方程式が出来上がる.

行列式をEinstein縮約で


 ここで,行列式をどう計算するのかが問題だ.幸い,Einstein縮約でそれを行う方法があるので,それを使わせてもらうとしよう.これは,例えば,2x2, 3x3, ..., NxNは次のようにする.
$$
\begin{eqnarray}
2 \times 2:~& |T| =& \frac{1}{2!} T^{i_1}_{j_1} T^{i_2}_{j_2} \epsilon_{i_1 i_2} \epsilon^{j_1 j_2} \\
3 \times 3:~& |T| =& \frac{1}{3!} T^{i_1}_{j_1} T^{i_2}_{j_2} T^{i_3}_{j_3} \epsilon_{i_1 i_2 i_3} \epsilon^{j_1 j_2 j_3} \\
N \times N:~& |T| =& \frac{1}{N!} T^{i_1}_{j_1} \cdots T^{i_N}_{j_N} \epsilon_{i_1 \ldots i_N} \epsilon^{j_1 \ldots j_N}
\end{eqnarray}
$$
ここで,\( \epsilon_{i_1 i_2 \ldots i_N} \)などの記号は,Revi-civita記号といい,添字\( (i_1 i_2 \ldots i_N) \)に入る数字(順列)が\( (12 \ldots N) \)なら1,その偶置換(隣接添字を偶数回交換)も1,奇置換(隣接添字を奇数回交換)は-1,それ以外は0を返す.具体的に,3次のRevi-civita記号は次のようになる.
$$
\begin{eqnarray}
\epsilon_{ijk} = \begin{cases}
+1, & (\text{even permutation of }(ijk)) \\
-1, & (\text{odd permutation of }(ijk)) \\
0, & (\text{therwise})
\end{cases}
\end{eqnarray}
$$
次節で,これらの方法を使って固有方程式を変形し,\( \lambda \)の多項式を作ってみよう.

2x2の場合


 早速,2x2の行列\( T \)の固有方程式を求めてみる.まずは固有方程式から.
$$
\begin{eqnarray}
T^i_j v^j &=& \lambda v^i = \lambda g^i_j v^, \qquad
\therefore (T^i_j - \lambda g^i_j) = 0. \\
\end{eqnarray}
$$
更に,行列式をとり,
$$
\begin{eqnarray}
|T - \lambda g|
&=& \frac{1}{2!} \epsilon_{ij} \epsilon^{mn} (T - \lambda g)_m^i (T - \lambda g)_n^j \\
&=& \frac{1}{2!} \epsilon_{ij} \epsilon^{mn}
\{T_m^i T_n^j - \lambda (g_m^i T_n^j + T_m^i g_n^j ) + \lambda^2 g_m^i g_n^j \} \\
&=& \frac{1}{2!} \epsilon_{ij} \epsilon^{mn}
\{T_m^i T_n^j - 2 \lambda g_m^i T_n^j + \lambda^2 g_m^i g_n^j \} \\
&=& |T| - \lambda \text{tr}[T] + \lambda^2 |g|.
\end{eqnarray}
$$
結果,\( |T| - \lambda \text{tr}[T] + \lambda^2 |g| \)という多項式を得られた.これを見るに,さほど大変そうには見えず,暗記も難しくないだろう.覚えておけば,テストなどで役立つとは思うが.
ここで,\( \lambda^0,~ \lambda^1\)の係数( \( |T|,~ -\mathrm{tr}[T] \) )はテンソル不変量というもので,座標変換に対して不変になっている.

3x3の場合


 続いて3x3の場合も計算しよう.これも,次数が増えるだけで基本的なやり方は変わらない.
$$
\begin{eqnarray}
|T - \lambda g|
&=& \frac{1}{3!} \epsilon_{ijk} \epsilon^{abc}
(T - \lambda g)^i_a (T - \lambda g)^j_b (T - \lambda g)^k_c \\
&=& \frac{1}{3!} \epsilon_{ijk} \epsilon^{abc}
\left\{ \begin{array}{rl}
& T^i_a T^j_b T^k_c \\
-& \lambda ( g^i_a T^j_b T^k_c + T^i_a g^j_b T^k_c + T^i_a T^j_b g^k_c) \\
+& \lambda^2 ( g^i_a g^j_b T^k_c + g^i_a T^j_b g^k_c + T^i_a g^j_b g^k_c) \\
-& \lambda^3 g^i_a g^j_b g^k_c \\
\end{array} \right\} \\
&=& \frac{1}{3!} \epsilon_{ijk} \epsilon^{abc}
\left\{ \begin{array}{rl}
& T^i_a T^j_b T^k_c \\
-& 3\lambda g^i_a T^j_b T^k_c \\
+& 3\lambda^2 g^i_a g^j_b T^k_c \\
-& \lambda^3 g^i_a g^j_b g^k_c \\
\end{array} \right\} \\
&=& |T| - \lambda \frac{\mathrm{tr}^2[T] - \mathrm{tr}[T^2]}{2} + \lambda^2 \mathrm{tr}[T]- \lambda^3 |g|.
\end{eqnarray}
$$
3x3の場合はちょっと複雑になってしまった.ここでも,\( ( \lambda^0,~ \lambda^1,~ \lambda^2 ) \)の係数\( ( |T|,~ -(\mathrm{tr}^2[T] - \mathrm{tr}[T^2]) /2,~ \mathrm{tr}[T] ) \)をテンソル不変量という.これらもまた,座標変換不変である.

4x4の場合


 式の量が多いので,結果だけ示す.
$$
\begin{eqnarray}
|T - \lambda g|
&=& \frac{1}{4!} \epsilon_{ijkl} \epsilon^{abcd}
(T - \lambda g)^i_a (T - \lambda g)^j_b (T - \lambda g)^k_c (T - \lambda g)^l_d \\
&=& |T| \\
&-& \lambda \frac{ \mathrm{tr}^3[T] - 2 \mathrm{tr}[T] \mathrm{tr}[T^2] + 2 \mathrm{tr}[T^3] - \mathrm{tr}^2[T] \mathrm{tr}[T] }{6} \\
&+& \lambda^2 \frac{\mathrm{tr}^2[T] - \mathrm{tr}[T^2]}{2} \\
&-& \lambda^3 \mathrm{tr}[T] \\
&+& \lambda^4 |g|.
\end{eqnarray}
$$

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